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松山家庭裁判所 昭和58年(少)1016号 決定

少年 W・S(昭四三・一一・九生)

主文

少年に対し強制的措置をとることを許可しない。

少年を初等少年院に送致する。

理由

(審判に付すべき事由)

一  強制的措置許可申請事件

少年は、窃盗・家出などの問題行動と家庭環境(家庭疎外)から養護施設みどり寮に収容保護されたが適応できず、昭和五八年四月一五日から教護院えひめ学園に収容され教護されているが、

1  同年四月二八日から同年五月五日まで

無断外泊し、県内外泊七日。この間、単独でミニバイク(二台)を窃取。

2  同年五月二六日から同月二七日まで

他の収容児童と無断外出し外泊一日。この間、単独で現金二、〇八〇円を、共犯で三、五〇〇円及び物品七点を窃取。

3  同年六月七日から同月一七日まで

他の収容児童と無断外出し外泊一〇日。この間、単独で現金一三、〇〇〇円及び物品四点を、共犯でミニバイク(二台)を窃取。

4  同年六月二〇日から同月二四日まで

他の収容児童二名と無断外出し外泊四日。この間、共犯で現金一九一、七一〇円及び物品(カメラ、食糧品など)一〇二点を窃取。

と、無断外出して帰園し、また直ちに無断外出するという繰り返しであり、その理由はいずれも学園生活がおもしろくないからだというが、最近では窃取したバイクの無免許運転の際の交通事故が懸念される。このため教護院における教護は困難であり、強制的措置が必要と認められる。

二  窃盗保護事件

1  非行事実

少年はAらと共謀のうえ、別表記載のとおり、現金及び物品を窃取したものである。

2  適用法条

いずれも刑法二三五条、六〇条

(処遇の理由)

一  本件記録、当庁家庭裁判所調査官○○作成の少年調査票及び審判の結果を総合すると次のような事実が認められる。

1  少年は、幼時実母が稼働していたため母方祖母や保育所において養育されたが、満四歳時に実父母が離婚し、以後実父方に引き取られ、父方祖父母の下で養育されるようになつた。就学後は、実父が再婚して継母が少年を養育したが、実父は少年に乱暴することが多く、小学低学年ころ、早くも家出がみられる。さらに、満八歳時継母の妊娠により実父の要請で少年は再び母方祖父母に引き取られたが、盗み等があつたとして間もなく、実母の養育するところとなつた。少年はこの時非常に嬉しかつたと述べている。このころ、実母は少年を連れて、二女のある養父と再婚、同時に少年は養父と養子縁組をしたが、養父にとつては意に沿わない縁組であつた。養父は仕事一途で、実母も経済上の理由で昼夜稼働し、少年は孤独に置かれた上、実母には養父やその実子に気を遣い、少年にきめ細かな愛情を注ぐに至らず、またそれまで少年の養育に携わつたことがなかつたため、少年の心裡や行動に対する理解が浅かつたのではないかと推認される。少年はこのころにも家出をしている昭和五六年、少年は松山市立○○中学校に入学したが「このころから実母は少年に口喧しく勉強を強いるようになり、再び少年の家出が始まると、両親揃つてこれを厳しく咎め、体罰を加えたり、反省文を書かせたりした外、養父は縁組解消を口にし、実母はヒステリツクに叱りつけている。少年にしてみると、家出は両親に対する抗議行動のつもりであつたのが、徐々に家庭からの逃避の色彩を帯びるに至つている。少年は実母から他の子と差別されているように感じ、実母を憎み、自身の素行の不良は家庭や環境が悪かつたからと他罰的思考をするようになつてきている。同年後半、触法行為(窃盗)があり、同年一二月二一日、愛媛県中央児童相談所(以下、児相と略称する。)の一号措置(児童福祉法二七条一項一号の措置を指す。以下、これに準ずる。)を受けたが、翌五七年後半にも再び同様の触法行為があり、三号措置によつて同年一一月一六日同県宇和島市内の養護施設「みどり寮」に入所させられ、ここで母子関係改善の兆候が見られたものの、通学していた同市立○△中学校での粗暴行為や昭和五八年三月末から二度に亘る無断外出・外泊があつて措置変更により同年四月一五日同県新居浜市内の教護院「えひめ学園」に入所させられた。しかし、ここでも苦手なスポーツをやらされる、寮母がヒステリツクに叱りつける、他の収容児童から乱暴される、規則正しい生活に順応できないとして上記審判に付すべき事由のとおり無断外出・外泊を反復した。少年は実母の元に帰るつもりで外出する訳ではあるが、結局帰るに帰れず、方々で寝泊りしながら、交通費や食費のため窃盗の非行を重ねていた。(なお、窃盗保護事件の非行事実は強制的措置許可申請事件の4の無断外出中の行状の一部である。)

2  少年は知能が高く、抽象的表現の会話もかなり可能であり、年齢に比べて自己確立が早く、他人の気持を洞察する能力も相当程度窺える。上記のように、基本的な母子関係につまずきがあつたため、依存心、甘えは強いがこれを直截に表現することにはためらいがあり、衝動性があつて自我主張が強く攻撃性・社会的活動性が強いが人格モデルが与えられていないことから承認欲、向上意欲が不安定となつている。

3  実母との関係は改善の傾向にあるが、養父が実母との離婚まで口にして少年を拒否しており、上記経緯から考えても在宅処遇は望ましくない。

児相は、強制的措置が許可されれば武蔵野学院に入所を申請するとしているが、母子関係の調整の観点からは松山少年院での処遇がふさわしいとの意見である。

なお、えひめ学園では受け入れに消極的である。

二  以上のところから、少年につき一般教護院における教護はもはや限界に達していると判断されるのであるが、少年を取り巻く家庭環境は少年自身の如何ともしがたい処であり、初発非行の早さやその再非行可能性の程度からしてこの際強制収容の可能な施設収容に依る外ない。

そこで検討するに、そもそも少年の現状には実母との親子関係の希薄さが大きく影響しており、従つてその改善調整がまず少年の更生の第一歩であるべきこと、少年の非行は教護院等への収容と密接に関連しているものの徐々に非行性が深化していると考えられること、少年の性格の矯正には短期集中的な矯正施設内での指導が効果的ではないかと考えられること等から、処分の法的形式は厳しくとも、実母が養父との婚姻生活に気兼ねせず少年と面会できる近傍の初等少年院における一般短期処遇を選択することがより適切である。

三  よつて、少年を初等少年院に送致することとして少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して主文第二項のとおり決定するとともに、本件強制的措置許可申請はその必要性を失うので主文第一項のとおり決定する。

(裁判官 橋本良成)

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